モバイルオーダー導入時のスタッフ教育
初日に伝える3つと、慣れるまでの2週間
最終更新: 2026年9月10日
席のQRから注文を受けると決めたあと、最後に残るのが「スタッフにどう伝えるか」です。研修の日を設けるべきか、マニュアルは必要か。先に結論を書くと、操作の説明そのものは15分で終わります。週に1日だけ入るパートの方でも、その日から回せる程度です。手間取るのはそこではなく、音の鳴る端末を誰が持つかを決めることと、注文を伺いに行く回数が減ったあとも卓の様子を見る習慣をどう残すかです。初日に話す順番と、最初の2週間で実際に起きることをまとめました。
1. 覚える操作は3つ
スタッフ側の操作は、たいていのサービスで3つに収まります。新しく入った注文を画面で確認する。料理を出したらタップして提供済みにする。会計のときに卓のQRを読み取り、合計を確かめる。この3つです。
売切の切り替えや日替わりの登録まで含めても、触る画面は片手で数えられます。研修用の資料を作り込むより、営業前に端末を回して全員に1回ずつ触ってもらうほうが早く済みます。
それでも初日はぎこちなくなります。動く順番が変わるからです。これまでは、卓から呼ばれる、伺いに行く、書く、厨房へ通す、という順でした。これからは、音が鳴る、画面を見る、作る、運ぶ、となります。呼ばれてから動いていた人が、音が鳴ってから動くようになる。頭では分かっていても、最初の数日は体が先に卓へ向かいます。
2. 音の鳴る端末を、誰が持つか
注文は、どこかの端末に音で届きます。その端末を厨房に置くのか、ホールの人が持つのか、両方に置くのか。人数や、料理を誰が運ぶかによって答えが変わります。
| 厨房に1台、置く | 作る人が直接見る形です。伝票を通す手間がまるごとなくなります。ワンオペや、厨房1人とホール1人の店に向きます。ホール側は、今どの卓に何が入っているか分からなくなるため、出来上がった料理を渡すときに卓番を声に出す約束が必要です |
|---|---|
| ホールが1台、持つ | お客様からの呼び出しや会計に対応しやすい形です。ただし、厨房へは今までどおり口頭で通すことになるため、伝える工程は残ります。減るのは、注文を伺いに往復する時間だけです |
| 2台に分ける | 厨房とホールの両方で同じ画面を見ます。端末の台数で料金が変わらないサービスなら、費用は増えません。ただし、次に書く落とし穴があります |
2台にするときに気をつけたいのは、両方が見ている状態は、どちらも見ていない状態に変わりやすいことです。提供済みにタップする役を決めておかないと、同じ料理を二度出したり、出したのに画面へ残ったままになったりします。決め方は単純です。卓へ運んだ人がタップする。運んだ人以外はタップしない。ここまで言い切っておくと迷いません。
置き場所も先に決めます。厨房なら、水がかからず、油煙が直接当たらず、立ったまま目に入る高さです。スタンドが1つあれば足ります。ホールが持つなら、エプロンのポケットに入るかどうかを実際に試してください。入らない大きさのタブレットは、結局どこかに置きっぱなしになります。
地下の席や、電波の弱い場所がある店では、端末を置く位置そのものを先に確かめておいてください。このような環境面でのつまずきはデメリットと対策にまとめています。
3. 初日の15分で話す順番
営業前の15分で足ります。順番にも理由があるので、そのまま並べます。
- なぜ入れるのかを最初に伝える:「注文を伺いに行く往復を減らしたい」でも「呼ばれても手が離せないときに、お客様を待たせたくない」でも、店の言葉で構いません。ここを飛ばして操作から入ると、自分の仕事が要らないと言われたように受け取る人がいます
- 全員に、自分のスマホで1回注文してもらう:お客様と同じ画面を体験することが、いちばん早い説明になります。3分で終わります。これをやっておかないと、あとで「どうやるの」と聞かれたときに一緒に戸惑います
- 音を全員に聞かせる:どんな音が、どのくらいの大きさで鳴るのかを確認します。ここで、鳴らない端末が混じっていることにも気づけます
- 3つの操作を見せる:新着を見る、提供済みにする、会計で読む。1回ずつ実演すれば伝わります
- 口頭注文は今までどおり受ける、と明言する:これを言わないと、良かれと思って「スマホからお願いします」と言い切ってしまう人が出ます。席のQRは選べる方法を増やすもので、口頭注文をやめるためのものではありません
- 迷ったら口頭で受けて、あとで入力する:初日からすべてを画面で完結させる必要はありません。逃げ道を先に示しておくと、現場が止まりません
この5番目は飛ばさないでください。スマホでしか注文を受けない店で入店を断られた、という話は新聞やSNSで繰り返し取り上げられています。店側にそのつもりがなくても、伝え方ひとつで同じことが起こります。
紙のマニュアルは、初日の翌週あたりに作るくらいでちょうどいいと思います。実際につまずいた箇所だけを書けば、A4で1枚に収まります。想像だけで書いた分厚いものは、たいてい読まれません。
4. 最初の2週間で起きること
起きやすいものから並べます。多くは数日で収まります。
- 音に気づかない:いちばん多いのがこれです。ピーク帯の厨房は、換気扇や食器の音で埋まります。バイブだけに頼らない、置き場所を耳の高さに近づける、音量を上げる。それでも埋もれるなら、ホール側にもう1台足すのが早いです
- 二重に受ける:お客様が画面から頼んだのに、スタッフが卓へ行って口頭でも伺ってしまう。卓へ向かう前に画面を見る、という順番が身につくまでの数日だけです
- 卓番の取り違え:掃除のときにQR札を別の卓へ動かすと、違う卓の名前で注文が届きます。札に卓番を大きく書いておくのが確実です。札の作り方と置き方はQRコード注文の始め方に書きました
- お客様に聞かれて答えられない:読み取れない、画面が進まない、といった相談は最初の週に集中します。手順2の試し注文を済ませていれば、たいていその場で答えられます
1週目には、ひとつ覚悟しておくことがあります。初日から数日は、むしろ手間が増えます。画面から入る注文と、口頭で受ける注文が混ざるからです。両方に目を配る期間なので、全卓を一斉に切り替えると、この混ざり具合が店全体に広がります。1卓か2卓から始めれば、混ざるのもその卓だけで済みます。
2週目に入ると、注文を取りに行かなくていいことが体に染みついてきます。空いた時間の使い道が見えてくるのも、このあたりです。卓を増やすなら、ここまで来てからでも遅くありません。
5. 呼ばれなくなってから
ここは、導入前にはあまり話題にならないところです。
注文を伺いに行くことは、卓の様子を見に行く口実でもありました。グラスが空いていないか、料理が残っていないか、何か言いたそうにしていないか。伺いに行かなくなると、その機会も一緒に減ります。呼び出しのボタンがあるサービスなら押してもらえますが、押すほどではない程度の用事は拾えません。
対策は、巡回のタイミングを決めてしまうことです。料理を出した数分後に一度、あとは30分ごと。この程度の取り決めがあるだけで、なくなりかけた往復が戻ります。減らした工程のぶん、何をするかを決めておかないと、ただ手が空くだけになります。工程そのものの整理は人手不足対策にまとめました。
もうひとつ、新人の育ち方も変わります。注文を取らないと、品名と中身が頭に入りません。メニューの暗記が要らなくなることは導入の利点として挙げられがちですが、裏返せば「これ、何が入ってるんですか」に答えられない状態も同時に生まれます。ここは自動では埋まらないため、週に1回、5品ずつ味と材料を確かめるくらいの手当てが必要です。
聞き間違いや通し忘れは、たしかに減ります。ただし、すべてが消えるわけではありません。残るものと、新しく出るものがあります。そちらはオーダーミス対策で工程ごとに分けました。
6. 1卓と1人から始める
- 1卓だけQRを置く:声をかけやすいカウンターの端や、常連さんの席から始めます。全席を一度に切り替えないこと
- その卓を見る人を1人決める:全員で見ると、誰も見ません。音を聞く人と、提供済みにタップする人を、同じ1人にしてしまいます
- 1週間そのまま回す:読み取ってもらえるか、音が聞こえるか、提供済みのタップが抜けないか。見るのはこの3つです
- 卓を増やす:回るようになってから増やします。見る人を増やすのは、そのあとです
- 2週目に、全員で試し注文をやり直す:ここで出た引っかかりを直せば、メニューの整理はだいたい終わります
週に1日だけ入るパートの方や、たまに手伝いに来る家族には、この順番がそのまま伝わりません。次に出勤したときに手順2と4だけをもう一度行うのが現実的です。全員が同じ日に揃う店のほうが少ないため、揃うのを待たないほうがいいと思います。
ここまでやっても合わない店はあります。客層のほとんどがスマホで注文しない店では、スタッフが慣れる前に使う人がいなくなります。判断の材料は個人店の導入ガイドにまとめました。
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